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エコミュージアム
「NPO北はりま田園空間博物館(田空)」の研究
Ⅳ.田空4エリアのサテライトミュージアムにおける主地域資源の特徴

津川兵衛・川本あづみ・山田悠加里・田邊倫子・上吹越美沙・矢部祥平
(2012年3月31日発表)
はじめに
 前報(津川ら,2011b)では,田空4エリアの全てのサテライトミュージアム(地域資源展示コーナー,以後サテライトと略称)は6種類ある地域資源のうち1~4種類を保有するが,そのうちサテライトの特徴を最も強く示す1種類を主地域資源(*)に選んだ.田空においては,4エリアごとにサテライトおよび主地域資源に関する情報が得られるので,どのエリアではどの地域資源が主地域資源となる割合が高いか,あるいは低いのかを比較することができる.得られた結果に基づき,特定の主地域資源が極端に少ないエリアでは増加に向けての対策が立てられよう.田空4エリア間の主地域資源に関する比較研究は,エコミュージアムの比較研究にも適用できるであろう.
 本研究では主地域資源に基づきサテライトを類別することの妥当性,エリア別あるいは田空全体において,6種類の地域資源が主地域資源となる割合,ならびに各エリアはどのような割合で主地域資源を異にするサテライトによって構成されているのかを明らかにした.
結果および考察
1.6種の地域資源が主地域資源になる割合

 前報(津川ら,2011a)の表3に示したように,西脇エリアのサテライト秋谷公園は6個(6件と同義)の地域資源は保有する.しかし,ヒノキ林,秋谷池および庵谷池はいずれも自然遺産(N)に属するため,このサテライトは4種の地域資源を保有していることになる.そして,このサテライトの主地域資源は公共施設(P)であり,残りの3種の地域資源,すなわち教育・学術的活動(S),自然遺産(N)およびコミュニティー活動(Co)は副地域資源となる.したがって,著者らの定義によると,サテライト秋谷公園は1種の主地域資源と3種の副地域資源を保有するといえる.
 本研究においては,図1に示したように,西脇エリアでは30個の公共施設の存在が確認され,そのうち27個が主地域資源の座を占め,副は3個にすぎなかった.したがって,全公共施設のうち主地域資源となる割合は27/30×100=90.0%であり,西脇エリアでは公共施設が主地域資源になる割合が最大(第1位)を示した.一方,同エリアの自然遺産については,全21個のうち主地域資源となったのは3個にすぎず,その割合は3/21×100=14.3%と最小であった(第6位).同様にして全4エリアの6種の地域資源につき,主地域資源となる割合を算出し,棒グラフを用いて図示している(図1).
 全エリアにおいて,公共施設がサテライトの主地域資源となる割合は1ないし2位を占め,産業は1~3位であった.文化遺産は加美エリアだけが1位で,他の3エリアでは2ないし3位であった.自然遺産は西脇エリアが6位と最低で,残りの3エリアでも4ないし5位と低かった.コミュニティ活動は西脇,加美両エリアが4位,中,八千代両エリアが6位となっていた.教育・学術的活動は加美エリアでは主地域資源になることはなく,他の3エリアでも5位にすぎなかった.4エリアを平均すると,産業はサテライトの主地域資源となる割合が最大(85%)で,僅差で公共施設(84%)が続いた.その他,文化遺産(65%),コミュニティ活動(40%),自然遺産(34%),および教育・学術的活動(23%)の順にサテライトの主地域資源になる割合は低下した.
2.田空4エリアにおける異なる主地域資源をもつサテライトの割合
 図2に示したように,西脇エリアでは自然遺産と教育・学術的活動,中エリアでは産業を主地域資源とするサテライトの割合は非常に小さかった.また,加美エリアでは教育・学術的的活動を主地域資源とするサテライトはなかった.教育・学術的活動が主地域資源となるサテライトの割合は最高でも11%(八千代エリア)と低かった.西脇エリアの自然遺産と中エリアの産業の割合が非常に低いのは局地的現象と考えてよいだろうが,教育・学術的活動の割合は4エリアを通じて低かったので,これは普遍的傾向であるとみなし得る.
 西脇エリアにおいて自然遺産を主地域資源とするサテライトの割合が低い理由は,①この地域が平野部に位置し,もともと風景が単調であることなど,主地域資源に相応しい自然遺産が少なかったこと,②域内は比較的早くから開発が進み,人口が集中し,他エリアに比べ都市化が急速に進んだため,公共施設や産業施設が増加し,道路網が充実した反面,美しい自然が破壊されたことが原因となっているのかも知れない.
 中エリアの産業の場合は,このエリアがかなり広い市街化地域を有し,各種中小企業・商店が点在するので,業種を問わなければ,比較的速やかにサテライトを補充することは可能であると思われる.教育・学術的活動はコミュニティ活動とともに地域交流,山村留学,その他各種イベントの開催において重要な役割を果たすものである.また,この分野は運用次第で,実体験を通じて青少年の理系指向の高揚に役立てることができるので,学校教育の補完的役割をも期待できるのではないだろうか.さらに,本分野は高齢者の生涯学習の推進とも関連づけて考えるべきである.
3.主地域資源に基づくサテライト分類の意義
 サテライトは複数個(件),あるいは複数種類の地域資源を保有する場合が多いが,それら全てをパラメタとして用いてサテライトを分類したり,集客程度や対費用効果などの経済性を考慮してサテライトの主地域資源を選定することは可能であろう.しかしこの場合,まずサテライトが保有する地域資源についてさまざまなデータを集積しなければならない.しかも,それらのデータを統一的に取り扱うために何らかの数値変換を迫られるであろう.さらに,地域資源の重要度合を比較するために複雑な数理統計学的な計算過程を経なければならないであろう.この点,本分類法は利便性において極めて優れているといえよう.反面,本方法は客観性に乏しいという批判を受けるかも知れないが,本研究で規定した主地域資源の用語は基本的にはサテライトの名称に基づき選定されたとみなしてよい.一方,サテライトの名称はそれらの所有者,管理者その他関係者の合議のうえ,それぞれのサテライトが所有する最も重要度の高い展示物に基づき厳選されたものと考えてよいであろう.これらの諸点を考慮すれば,サテライトを類別するために提案した主地域資源に基づく本方法は,合理性を有するものと認められ得る.
 図1に示したように,田空4エリアの平均において(図中最下段),主地域資源になる割合が最大の産業(84.8%)については,4エリア中でこの割合が最高の西脇エリア(最上段)では89.3%,最低の中エリアでは50%であり,両エリアの差は39.3%となっている.一方,4エリアの平均で主地域資源となる割合が最小の教育・学術的活動においては,4エリア中この割合が最高の八千代エリアでは37.5%,最低の加美エリアでは0%であり,両者の差は37.5%である.2番目に小さい西脇エリア(17.6%)との差は19.9%となっている.その他の地域資源においても主地域資源になる割合には明白な差が認められる.このように,図1の「サテライトの主地域資源になる割合」ならびに図2の「異なる主地域資源をもつサテライトの割合」については,4エリア間で明確な差が生じているものであるから,主地域資源をエコミュージアムの特性判別の指標として用いることは妥当であると思われる.
 図1の4エリアの平均(図中最下段)では,サテライトの主地域資源になる割合は,産業,公共施設および文化遺産の順に第1位から第3位までを占めている.図2でも,それら三者を主地域資源とするサテライトの割合は順位(公共施設,文化遺産および産業の順)こそ異なるが,いずれも3位以内に入っている.さらに,その他の3主地域資源(4~6位)においては同一順位を占めている.これらの事実から,図2の「異なる主地域資源をもつサテライトの割合」には,図1に示した「サテライトの主地域資源になる割合」が反映されていると推察されるが,現在のところ両者の関係を論ずるには至っていない.しかし,本研究の図1ならびに図2を作成して,エコミュージアムの特性比較に供することは意義あるものと思われる.

参考文献
津川兵衛・川本あづみ・山田悠加里・田邊倫子・上吹越美沙(2011a)エコミュージアム「NPO北はりま田園空間博物館(田空)」の研究 Ⅱ.地域資源ならびにサテライトの分類に関する一試案http://tenecotourism.blog62.fc2.com/blog-entry-48.html
津川兵衛・川本あづみ・山田悠加里・田邊倫子・上吹越美沙・矢部祥平(2011b)エコミュージアム「NPO北はりま田園空間博物館(田空)」の研究 Ⅲ.田空4エリアにおけるサテライトの地域資源保有状況http://tenecotourism.blog62.fc2.com/blog-entry-49.html

謝辞
NPO北はりま田園空間博物館の役員の方々には,本論文を御精読下さり,細部にわたりご教示頂いたことを心よりお礼申し上げる.

 

エコミュージアムⅣ図1

   図1.北はりま田園空間博物館の4エリアにおいて各主地域資源が
      サテライトの主地域資源になる割合(%)
      注)教・学活動(S)=教育・学術的活動(S)



エコミュージアムⅣ図2
                主地域資源の異なるサテライトの割合(%)

     図2.北はりま田園空間博物館の4エリアにおいて異なる主地域資源を
        持つサテライトの割合(%)
        注)教・学活動(S*)=教育・学術的活動(S*)
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エコミュージアム
「NPO北はりま田園空間博物館(田空)」の研究
Ⅲ.田空4エリアにおけるサテライトの地域資源保有状況
津川兵衛・川本あづみ・山田悠加里・田邊倫子・上吹越美沙・矢部祥平

はじめに
 北はりま田園空間博物館(田空)のサテライト(展示コーナー)が保有する展示物の種類は極めて多様なため,それらを大別する何らかの手段を講じなければ,展示物をサテライトあるいはエコミュージアムの特性を示す指標として用いることはできない.したがって,前報(津川ら,2010b)では,サテライトが保有する展示物を自然遺産,文化遺産,産業,公共施設,コミュニティー活動,教育・学術的活動の6種類の地域資源に分類する方法を提案した.前報(津川ら,2010b)のように,サテライトの全展示物を余すところなく6種類の地域資源に類別することができれば,地域資源の数はサテライト,ひいてはエコミュージアムの特性を示すパラメタとして取り扱うことが容易となろう.
 現在わが国には極く少数のエコミュージアムが存在するが,田空のようにサテライトに関する資料が与えられていないので,田空と他のエコミュージアムとの比較研究は進んでいない.しかし,田空は平成の大合併以前に創設されたことが幸いして,設立当初から現在に到るまで西脇市(旧西脇市+旧黒田庄町)および多可町中区・加美区・八千代区4エリアのサテライトに関する情報が個別に得られるので,これらエリア間の特性比較は可能である.本研究ではこれら4エリアを4つの異なるエコミュージアムに見立てて,サテライト当たりの地域資源の保有状況ならびに4エリアにおける6種の地域資源の構成割合を比較し,4エリア間の地域資源保有数に差が生じた原因について考察を加えた.
結果および考察
1.田空4エリアの人口ならびに地理的特徴
 自治体の行政区域に基づいて田空を西脇(西脇市),中(多可町中区),加美(同加美区)および八千代(同八千代区)の4エリアに分け,地理的概要を述べる(表1).西脇エリアは瀬戸内海東部に流れ込む加古川の中流域に位置し,面積,人口ともに4エリア中最大(それぞれ田空全エリアの42%,65%)であり,かつては播州織で栄えた北播磨きっての人口集中地区としての名残りを留めている.他方,中エリアは地域の大部分が加古川の支流杉原川沿いの比較的広い河岸段丘上に発達した町であって面積は最小であるが,人口は第2位(16%)を占める.加美エリアは中エリアに隣接し,かつ杉原川のより上流部に位置して,川沿いのやや狭い河岸段丘および杉原川に流入する幾つかの谷川沿いに集落が分散する町である(面積2位,人口3位).八千代エリアは加古川の支流野間川の狭い河岸段丘上に形成された町であり,面積3位,人口は最少となっている.
 森林率および耕地率から判断すると(表1),西脇,中エリアはともに中間農業地域に,加美,八千代両エリアは山間農業地域に区分される.
2.田空4エリアのサテライトならびに地域資源の数
 表2に示したように,2008年度には田空は全体で206箇所のサテライトを保有しており,そのうち西脇エリアは48%と飛びぬけて大きな割合を占め,八千代エリアは最少の14%であった.エリア当たりの地域資源保有数はサテライト数と類似の傾向を示した.サテライト当たりの地域資源保有数は西脇,中および八千代の3エリアでは1.8ないし1.9種類とほぼ等しく,加美エリアは1.5種類と僅かに小さかった.4エリア平均では1.8種類であった.
3.田空4エリアのサテライト当たりの地域資源の種類数
 前報(津川ら,2010b)で述べたようにして,田空全206箇所のサテライトが保有する地域資源の種類を確定した.それらのサテライトには地域資源を1種類しかもたないものから最高4種類をもつものまであった(図1).全てのエリアにおいて地域資源を1種類ないし2種類保有するサテライトの割合は第1位ないし第2位であった.加美と八千代両エリアでは4種類の地域資源をもつサテライトはなかった.平均では地域資源を2種類もつサテライト(43%)が1種類もつもの(41%)よりわずかに多かった.これら2者と比較して,3種類(14%)あるいは4種類(2%)の地域資源をもつサテライトの割合は極めて小さかった.
 図2に,エリアごとにそれぞれの地域資源が占める割合を示した.各エリアで地域資源の占有割合の大きい順に1位から6位まで等級を付け,1-2位を上位,3-4位を中位,5-6位を下位とすると,自然遺産では加美,八千代の2エリアが上位,残る2エリアが中ないし下位であるから,本地域資源はエリアにより上位と下位に偏在する傾向があるといえる.平均ではこの地域資源は4位となっている.文化遺産は上・中位に各2エリアが含まれ,平均では第2位である.産業は3エリアが下位,残りの1エリアも中位で,平均で5位である.中エリアで本地域資源の割合が極端に低いのが特徴的である.公共施設は上・中位が各2エリアで,平均では3位となっている.コミュニティー活動はいずれのエリアとも順位は高く,最も低い中エリアでも3位であり,平均では1位である.これに対して,教育・学術的活動はいずれのエリアとも順位が低く,順位が最も高い八千代エリアでも4ないし5位であり,平均では最下位となっている. 
 自然遺産は中間農業地域の西脇と中エリアで順位は低く,山間農業地域の加美および八千代エリアで高くなっていた.これは中間地に当たる前2者よりも山間地に立地する加美,八千代両エリアは複雑な地形を有し,優れた山岳美や渓谷美を数多く保有することに原因があると推察される.
 文化遺産の保有割合は山間地よりも中間地の方が大きく,自然遺産と逆の傾向が見られた.これは中間地の方が平坦地が多いため,農業はじめ諸産業が早くから発達し,人口の集中度が高く,社会的発展が早かったがゆえに,文化遺産に分類される地域資源を豊富に蓄積したためではなかろうか.
 西脇以外のエリアで産業分野の占める割合が低いのは,これらエリアが西脇よりも山地的傾向が強いため,元来農林業以外の産業が発達しにくかったことに起因するのであろう.なお,中エリアの産業分野の割合が極端に低い原因が単に田空サテライトへの登録希望が少なかったことによるものであれば,田空活動の理解を深めるためにも加入への働きかけを進めてもよいのではなかろうか.なお,産業分野の拡大を指向するなら,工場誘致等により従来型産業を増やすのでなくて,地域に密着した体験型観光農業とか,1村1品運動から生まれた特産品の製造・販売部門の強化を計るのが得策であると思われる.
 公共施設の割合はいずれのエリアともかなり高かった(2-4位,平均で3位)のは,農村部での公共施設建設のために国や県の財政的支援が手厚く行われてきたことを示唆するものであろう.しかし,箱物行政が厳しく批判される昨今,今後の公共施設は未来指向型のものでなければならない.中山間地の田園風景を際立たせ,農村観光(グリーンツーリズム)旋風を巻き起して,町づくり・村づくりの基盤となり得るほどの規模の大きなエコファーム(体験型観光農園)のような施設であることが望ましい. これはまた,三重県伊賀市の「伊賀の里モクモク手づくりファーム」や滋賀県米原市の「ローザンベリー多和田(2011年6月開園予定)」のような内容豊かで,入園者を楽しませる魅力ある施設でなければならない.
 コミュニティー活動は住民活力の一つのバロメタとなるものと推察される.すべてのエリアでこの地域資源が1-3位の範囲にあり,平均では1位を占めるのは,北播地方の住民が町づくり・村づくりに精力的に取り組んでいることを物語るものである.北播磨が全国的に見ても比較的早い段階でエコミュージアム設立に漕ぎつけられたのも,この辺の事情と関連するものであろう.
 西脇・多可地方が中山間地に位置する関係から,大学や研究所等の教育研究機関がないため本格的な学術活動が低調なことはやむを得ない.このことは田空全エリアにおいてこの種の地域資源の占有割合に端的に反映されていると思われる(全エリアで4-6位,平均で6位).
 なお,自然遺産は自然環境に強く制約されるものであるから,簡単に急増を期待できないが,中エリアの産業分野の増大は困難ではないと思われる.また,教育・学術的活動はいずれのエリアとも順位は低く,八千代エリアがせいぜい第4位であった.この地域資源はコミュニティ活動とともに,地域交流において重要な役割を果たす展示物を保有しているので(津川ら,2010b),八千代以外のエリアでは,特に展示物の増加を図ることが望ましい.このことと関連して次に紹介する意見は一考に値するものである.
 兵庫県加東市のある小学校の「ふるさと体験学習」は,20年以上も続いている課外活動であるという.ここで児童は独楽,めんこ,お手玉で遊んだり,竹や木を使って玩具作りを教わったりする.子供たちの祖父母が講師役を務めているが,このままでは20年後には教える人は皆無になるという.そこで,この種の遊戯を次の世代に伝えるために,せっかく教わった手順を忘れないよう自宅で練習しようと考えている人がいる(高橋泰子,2009).今やこのような日本の伝統的遊戯の廃退を危惧する声は全国的な広がりを見せている.この分野の地域資源は文化遺産やコミュニティ活動とも深い関係をもち,住民の生活の様態や地域の活動状況を如実に反映するものである.田空はこの分野の補強を喫緊の課題に据えてみるのはいかがなものだろうか.発祥の地フランスにおけるエコミュージアム創設の理念(津川ら,2010a)を追及するものとして,上述の発想にはエールを送りたい.
参考文献
高橋泰子(2009) 昔の遊びが廃れるかも(2009年7月1日神戸新聞朝刊,p.5オピニオン),
            神戸新聞社,兵庫.
津川兵衛・川本あづみ・上村忠嗣・山田悠加里(2010a)
            エコミュージアム「NPO北はりま田園空間博物館(田空)」の研究
            Ⅰ.田空設立への取り組み 1.理念,
            
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津川兵衛・川本あづみ・山田悠加里・田邊倫子・上吹越美沙(2010b)
            エコミュージアム「NPO北はりま田園空間博物館(田空)」の研究
            Ⅱ.地域資源ならびにサテライトの分類に関する一試案,
            
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謝辞
NPO北はりま田園空間博物館の役員の方々には,本論文を御精読下さり,細部にわたりご教示頂いたことを心よりお礼申し上げる.

 


表1.北はりま田園空間博物館の4エリアにおける面積,人口ならびに
    林野率と耕地率

 区 域 面積      人口     森林率     耕地率
 (Km)              (%)       (%)
 西脇エリア
 中エリア
 加美エリア
 八千代エリア
 132.47    45,971     71.0       9.0 
  48.02    11,641     68.0      12.8
  84.06     7,370     84.9        7.0
  53.07     6,194     85.9       5.3
 合計および(平均) 317.62    71,176    (77.5)     (8.5)

注)面積ならびに人口の数値は西脇エリアでは2005(平成17)年7月末現在,
  他の3エリアは同年10月1日現在を用いた.林野率は第53次,耕地率
  は第57次兵庫県農林水産統計年報による.


表2.北はりま田園空間博物館4エリアのサテライト数,地域資源保有数
    およびサテライト当たり地域資源保有数

区 域サテライト数地域資源
保有数
サテライト当たり
地域資源保有数
西脇エリア
中エリア
加美エリア
八千代エリア
98
35
45
28
178
 66
 69
 54
1.8
1.9
1.5
1.9
合計または(平均)206367(1.8)

注)表中の数値は2008年3月発行の「北はりま田園空間博物館
  まるごとガイド」より計算した.   




図1       
  
図1.北はりま田園空間博物館4エリアにおける地域資源種類数を異にするサテライトの割合    



図2     

図2.北はりま田園空間博物館4エリアにおける異なる地域資源が占める割合
 





訂正
 前報で用いた地域資源の1種「学術的活動(S)」は,本報以降では「教育・学術的活動(S)」と変更する.

              エコミュージアム 
  
    「NPO北はりま田園空間博物館(田空)」の研究 
   Ⅱ.地域資源ならびにサテライトの分類に関する一試案

          津川兵衛・川本あづみ・山田悠加里・田邊倫子・上吹越美沙
 
1.はじめに
 地域主権が声高に呼ばれる今日,地域活性化のために,兵庫県北播磨地方に設立されたNPO北はりま田園空間博物館(田空)のような,地域住民の主体性の結晶であるいわゆるエコミュージアムの普及が予想される.先進事例としての田空は,さまざまな局面で後発組の規準となることは間違いない.この際,田空の諸特性をできる限り数量的な取り扱いが可能な状態にしておくことが望ましい.これは将来のエコミュージアムの比較研究に役立つものと思われる.田空の特性に関する数量的取り扱いに対処するためには,この施設が保有する地域資源ならびにサテライト(地域資源展示コーナー)を分類する方法を確立することが最初のステップとなるであろう.
 これまでに,エコミュージアムの地域資源は文化遺産,自然遺産,産業および公共施設の4種類に分類する方法が提案されている(勝又 徹,2001;高橋 満,2005).この方法では住民による地域活動ならびに生活のありさまを示す分野が欠落しているため,田空のガイドブック記載のサテライトすべてを分類するには難点がある.田空のサテライト募集要項(NPO北はりま田園空間博物館,2009)では,地域資源は上述の4分類区分のうちの前3者に「その他」を加えた4種分類法が採用されている.これでは,大きな割合を占める公共施設が軽視される上に,過去の4種分類法の欠陥である「地域活動」と「生活のありさま」の取り扱いが是正されないままである.本研究では以下に述べるように,地域資源を6種に分類する方法を提案するとともに,田空のガイドブック記載のサテライト(地域資源展示コーナー)を著者らが考案した「主地域資源」の概念を導入して分類してみた.

2.地域資源の分類と主地域資源の選定
 勝又(2001)および高橋(2005)による地域資源の4種分類区分にコミュニティー活動(Co)および学術的活動(S)の2分野を追加することにより,田空の展示物を比較的円滑に類別することができた(表1).
 表1を参照しながら,「北はりま田園空間博物館まるごとガイド(2008年3月発行)」(NPO北はりま田園空間博物館,2008)に掲載されているサテライトの名称と紹介文(見出し,本文)から,サテライトが保有する展示物の種類を特定する.本表に基づき,展示物の種類から自動的に地域資源の種類が確定される.そして,サテライトが保有する地域資源の中からサテライトの内容を最も適確に表現する地域資源を1種類選び主地域資源(*印)とした.
 表2に示したように,西脇エリアにあり登録番号No.00109,西脇市黒田庄町喜多地内の「秋谷公園」を例にとって地域資源の分類と主地域資源の選定につき説明する(表3).この公園(公園:公共施設P)は,ヒノキ林(植林地:自然遺産N)で有名.水の美しい秋谷池と庵谷池(ともに池:自然遺産N)があり,自然学習(学習:学術的活動S)と行楽(レクリエーション:コミュニティー活動Co)に最適である.以上の5点が秋谷公園のセールスポイントとなっている.同一分野の地域資源が複数個あっても1個に限定するとした定義に従うなら,地域資源保有数はP,N,S,Co の4個になる(表2および表3).サテライトのタイトルから公園が主地域資源とみなされるので公共施設Pの右肩に星印(*)をつける(P).星印のないN,SおよびCoはいずれも副地域資源である.本サテライトは公共施設を主地域資源とするサテライトであると定義される.
 登録番号No.00184,西脇市黒田庄町田高622の「春日神社」(表2)は三ヶ村の氏神(神社:文化遺産C)であり,樹齢約600年の大杉の神木(植物:自然遺産N)を保有する.毎年10月の秋祭にはふとん太鼓や神輿がでる(祭礼:コミュニティー活動Co).表2と表3の通り,春日神社の地域資源はC,N,Coの3種であり,主地域資源はC,NとCoは副地域資源となる.本サテライトは文化遺産を主地域資源とするサテライトであるといえる.
 表2のNo.00178,西脇市西脇991に所在する「西脇ロイヤルホテル」も田空のサテライトになっている(ホテル:産業Ⅰ)(表1).このサテライトは主地域資源のみを保有し,副地域資源はない.本サテライトは産業を主地域資源とするサテライトである.
 表2のNo.00065,多可町中区牧野817-41の「ココロン那珂」は県立播磨余暇村公園内に点在するコテージ(公園,レクリエーションの拠点:公共施設P)である.巨大な滑り台と回廊式コンビネーション遊具があり,広い芝生の広場をもつ(レクリエーション・スポーツ:コミュニティー活動Co).また,山菜採り・登山・螢狩り・清流遊び・昆虫採取(レクリエーション・スポーツ:コミュニティー活動Coおよび学習,体験:学術的活動S)ができる.本サテライトは公共施設(P)を主地域資源とする.
 No.00183,多可町中区高岸425-6(中児童館)には山陰名物銭太鼓を伝承する「銭太鼓“和楽会”」(無形文化財:文化遺産C)があり,銭太鼓の曲に合わせ唄い踊る(音楽・舞踊・演劇:コミュニティー活動Co).文化遺産(C)が本サテライトの主地域資源である.
 No.00174,多可町加美区西脇112の「足立醸造株式会社」は丹波産黒大豆と国産一等米を使い醤油と味噌を製造し,他のふるさと特製品とともに販売(伝統産業:産業Ⅰ)している.本サテライトがもつ唯一の地域資源(産業Ⅰ)が主地域資源となる.
 No.00173,多可町加美区岩座神地内の「岩座神棚田,石垣,景観」では石垣擁壁をもつ棚田の中に茅葺き民家が点在(棚田:文化遺産C)する風景が好まれる.また,滞在型市民農園「クラインガルテン」(市民農園:公共施設P)があり,棚田オーナー制度(体験:学術的活動S)を実施している.700年の歴史をもつ棚田(文化遺産C)が主地域遺産である.
 No.00100,多可町八千代区大屋中ノ谷の「市位義一」は人がサテライトになっている例である.氏はしめ縄等わら細工技術の伝承者(無形文化財:文化遺産C)である.子供たちにわら細工の指導(学習:学術的活動S)を実施している.市位義一氏(文化遺産C)が主地域資源である.
 No.00203,多可町八千代区仕出原438-1の「兵庫バスネット」は,北播磨地方を訪れる人のためのバスとタクシーのネットワーク(交通運輸:産業I)である.本サテライト唯一の地域資源(産業I)が主地域資源である

3.展示物の記載漏れとサテライトの命名に関する問題点
 本研究において資料として用いた田空の「まるごとガイド(2008年3月発行)」(NPO北はりま田園空間博物館,2008)に記載されているサテライトの中には,解説文に重要な自然遺産・文化遺産の記載漏れが推察されるものがある.体裁よく,かつ携帯に便利なガイドブックを作るためには頁数は制限され,そのためサテライトの紹介に割り当てられる字数は制約を受けるであろう.しかし,県指定級の重要文化財あるいは天然記念物には記載漏れのないよう留意すべきである.また,何ら指定を受けていなくても特色のある地域資源であると認められる物件には疎漏を来たさないことが肝要である.
 なお,田空創立以来,「まるごとガイド」は毎年更新されているので,展示物の取捨選択および解説文の改訂も進められていると思われるが,マンネリズムを防ぐためにも,今一度展示物の洗い出しを試みる必要があるのではなかろうか.また,恒例になっている田空主催のグリーンツーリズムでは,訪問先のサテライトについて参加者から意見聴取をすれば,所有者・管理者が気付かなかった素晴しい展示物の発掘に行き着くかも知れない.
 田空の「まるごとガイド(2008年3月発行)」(NPO北はりま田園空間博物館,2008)記載のサテライト一覧の中で,「ココロン那珂」,「市位義一」,「和輝愛逢」,「播衆天(あっぱれ)晴」,「K-Dream」などサテライト名だけから所有する地域資源の種類を推定するのが困難なものがある.たとえば「わら細工の市位義一」,「よさこい踊り和輝愛逢」とすれば地域資源および主地域資源を特定するのに都合がよい.現在のところ,ガイドブックの命名法には問題は生じていないであろうが,将来のエコミュージアム比較研究においてサテライトの分類を必要とするとき,著者らの指摘は一考の価値があるものと思われる.




参考文献
勝又 徹(2001) 田園空間博物館における教育的役割,農業土木学会誌
     第69巻137-142.
NPO北はりま田園空間博物館(2008) 北はりま田園空間博物館まるごとガイド
     (2008年3月発行)pp.24-48,NPO北はりま田園空間博物館,兵庫.
NPO北はりま田園空間博物館(2009) 北はりま田園空間博物館サテライト(展示物)募集
     (2009年1月発行内部資料)pp.1-2,NPO北はりま田園空間博物館,兵庫.
高橋 満(2005) 地球づくりとエコミュージアム[星山幸男編著自然との共生とまちづくり
     ーエコミュージアムの農山村から,第5章pp.129-150]北樹出版,東京.


謝辞
NPO北はりま田園空間博物館の役員の方々には,本論文を御精読下さり,細部にわたりご教示頂いたことを心よりお礼申し上げる.

  

表1.北はりま田園空間博物館における地域資源ならびに展示物の分類

地域資源展 示 物
自然遺産
(N)
 ①植林地・鎮守の森,②植物,③動物,④川・渓谷・滝・湧水,
 ⑤湖・沼・池,⑥山岳・里山(里山林,草地),⑦岩,⑧眺望
文化遺産
(C)
 ①寺院・神社・地蔵堂,②仏画・仏像,③磨崖仏,④近代化遺産,
 ⑤農業施設(棚田・溜池・水路等),⑥城・住宅,
 ⑦モニュメント・顕彰碑・多宝塔,⑧古墳・古窯跡・鋳造遺構,
 ⑨伝説・七不思議,⑩無形文化財
産業
(I)
 ①特産品開発・製造・販売,②食堂・レストラン・仕出し店・パン菓子店, 
 ③農業・園芸・野菜朝市,④ゴルフ場,⑤ホテル・宿泊施設・交通運輸,
 ⑥伝統産業
公共施設
(P)
 ①公園・庭園・遊園地・散策道・登山道・展望台,
 ②文化・教育・レクリエーション・スポーツ・およびその他の交流活動
   の拠点,
 ③博物館・美術館・資料館,④研修宿泊施設・キャンプ場,
 ⑤市民農園,⑥病院・福祉保養施設・宅老所
 コミュニティー活動
(Co)
 ①レクリエーション・スポーツ,②祭礼・神仏事・芸能・伝承遊戯,
 ③市町民祭・フリーマーケット等催し物,④音楽・舞踊・演劇,
 ⑤ボランティア
学術的活動
(S)
 ①教育,②研究(生物保護育成を含む),③学習,④体験



表2.サテライトの地域資源保有記載例

エリア 登録番号
(No.)
所 在 地サテライト
(地域資源展示コーナー)
地域資源
の種類
地域
資源数
西脇00109 西脇市黒田庄町喜多地内 秋谷公園 S,N,P,Co
00184  〃   〃   田高622 春日神社 C,N,Co
00178  〃 西脇991 西脇ロイヤルホテル I
00065 多可町中区牧野817-41 ココロン那珂 S,P,Co
00183  〃  〃   高岸425-6 銭太鼓“和楽会” C,Co
加美00174  〃 加美区西脇112 足立醸造株式会社 I
00173  〃   〃   岩座神地内 岩座神棚田,石垣,景観 C,S,P
八千代00100  〃 八千代区大屋中の谷 市位義一 C,S
00203  〃  〃  仕出原438-1 兵庫バスネット I
注)C;文化遺産  S;学術的活動  I;産業  N;自然遺産  P;公共施設  Co;コミュニティ
      ー活動
  *は主地域資源



表3.展示物の種類に基づくサテライト「秋谷公園」および「春日神社」における地域資源の分類
    と主地域資源の選定

サテライトと所有物件展示物地域資源主地域資源
 秋谷公園     秋谷公園
            ヒノキ林
            秋谷池
            庵谷池
            自然学習
            行楽
 公園・庭園等 
 植林地・鎮守の森
 湖・沼・池
 湖・沼・池
 学習
 レクリエーション
 公共施設(P)
 自然遺産(N)
 同上(同上)
 同上(同上)
 学術的活動(S)
 コミュニティー活動(Co)
 P
 N
 (同上)
 (同上)
 S
 Co
 春日神社     春日神社
            神木大杉
            秋祭
 神社
 植物
 祭礼・神仏事
 文化遺産(C)
 自然遺産(N)
 コミュニティー活動(Co)
 C
 N
 Co
注)*は主地域資源,他は副地域資源
               

                      エコミュージアム
        NPO北はりま田園空間博物館(田空)の研究
             Ⅰ.田空設立への取り組み
               3.田空設立の経緯
                  
                 
 
                 津川兵衛・川本あづみ・山田悠加里・田邊倫子・上吹越美沙

官と民の連携で
 田空設立への取り組みは,1999(平成11)年に着手された農林水産省の「田園空間博物館整備事業」の一環として始められた(財団法人農林統計協会,2000).この事業の趣旨は「農村の豊かな自然財産や伝統文化を再評価し,これらの保全・複元を通じて都市との共生を図り,もって地域活性化に資する」というものであった(中西 毅,2003).田空設立の経緯は中谷(2003)および田空発行のまるごとガイド(NPO北はりま田園空間博物館,2008)に基づいて次のように要約される.
 1999(平成11)年には前出(津川ら,2009)の1市4町の行政担当部局,県北播磨県民局社土地改良事務所,県土地改良事業団体連合会,コンサルタントおよびアドバイザー(学識経験者)からなる「北はりま田園空間博物館研究会」を発足させ,エコミュージアム構想の普及・啓発の取り組みを開始した.本研究会の企画・運営により,「田園空間博物館とは?(講演会方式)」および「田園空間博物館に関する意見交換ならびに地域資源の発掘(ワークショップ形式)」のテーマで市町(合併前の西脇市,多可郡黒田庄町,同中町,同加美町および同八千代町)ごとに2回のフォーラムを開催している.このように,田空は最初は行政主導型の地域活性化事業の色合いが強かった.
 翌(2000)年は行政主導から住民主導への移行期であった.同年5月には「第1回博物館の運営を考える座談会(参加者約30名)」を開催した.7月にはサテライト,コース,イベント,ニュースの4部会を設立した.10月には部会長による調整部会を設けて,各部会の意見調整や運営組織の設立に向けての検討を始めた.
 2001(平成13)年は住民主導が実践され,運営組織が充実してゆく時期である.同年2月には約100名の会員を結集して,「北はりま田園空間博物館準備会第1回総会」を開催した.7月にはサテライト(展示場)の募集開始,10月には各サテライト代表者で構成された「サテライト連絡協議会」が発足した.この年サテライトを活用した都市と農村との交流イベントを4回開催している.
 2002(平成14)年6月「特定非営利活動法人(NPO)北はりま田園空間博物館」設立総会を開催し,11月には法人認可の運びとなった.
 2003(平成15)年5月「サテライト連絡協議会第1回総会」が開催され,第5次募集を経てサテライト197件の登録を得た.また,田空インタープリター(案内人)養成講座を開設した.9月田空オープン1周年記念イベント「来たはりまっせ,北はりまきらきらサテライト」を開催している.
 2004(平成16)年4月インタープリター(案内人)登録者の会「田湖森(てんこもり)」が発足した.

産む苦しみ育つ喜び
 田空の外部向け講演資料(丸山好一,2009)では,田空設立の経緯を要約して表示し,「産みの苦しみと育つ喜び(これまでの歩み)」なる表題を与えている.上述のように1999(平成11)年5月に「北はりま田園空間博物館研究会」を立ち上げ,ワークショップの開催を皮切りにして,2004(平成16)年には田空の組織体制をほぼ整えている.
 田空を構成する1市4町は人口,財政規模においてかなりの差がある.西脇市はかつて繊維工業都市として繁栄した経歴をもつのに対して,4町はその周辺部の農村地帯にすぎなかった.だから,田空参加者の間で地域較差による不公平感が生じないようにするための配慮がなされてきた.たとえば,幹事会・部会・全体会議の開催場所を西脇市の本部事務所に固定するのではなく,1市4町の持ち回りの形をとっている.開催時刻は誰もが出席し易い夜間に定められている.また,各市町で催される主要な年間行事は役員・会員の出席を促すために月別スケジュールに書き込まれている.
 なにしろ面識のない者同士が作る組織であるから,話がこじれる場合もあっただろう.当初は意見の取りまとめに難儀したに違いない.しかし,「美しいふるさとで住民自らが輝こう」の創立精神に立ち戻って相互の行き違いを解消していった.会員の気持ちを高揚させ,意思統一に力を発揮したのはサテライトが充実し,来館者が次第に増加したことである.研究会の発足以来6年目の2005年(平成17年)には来館者数は80万人,翌年には100万人の大台に乗せ,9年目(2008年)には150万人を突破している.また,表1に示すように,視察・研修受入れを初めとする田空の広報・交流活動が活発化してきたことである.外部からの注目度が高まるにつれて,関係者は我が子が立派に育ってゆく喜びを噛み締めたことだろう.
地域発展の基石に
 上述のように,1999(平成11)年兵庫県北播磨地方に導入されたエコミュージアム構想は,行政と地域住民の協力の下に5年の歳月を経て「NPO北はりま田園空間博物館」の形を取って実現した.これは将来の地域発展の礎石となるものと期待されている.
 現在,田空は西脇市寺内天神池に所在する「道の駅北はりまエコミュージアム」内の田空総合案内所を本拠地としている.15名の理事と2名の監事からなる理事会の下に特産品,プログラム,サテライト,広報および総務の5部会からなる事務局が組織されている.また,田空は西脇市および多可町全域にわたる317.6km²の面積に約200箇所のサテライト(展示場)を配置しており,2008(平成20)年度は近隣都市を出発して,数箇所のサテライトを訪問するエコツーリズム(巡回ツアー・交流体験バスツアー)を9回実施し,参加者は田園探訪の小旅行を大いに楽しんでいる.その他,同年度にはウォーキング(日本一長い散歩道を歩こう)4回,体験教室8回,サテライトセミナー(神事・仏事紹介)2回,広報誌(ニュースでんくう)発行12回,イベント情報(みどころガイド&イベントカレンダー)発信(4回)等盛り沢山の行事・企画を実施し,各種会員あるいは利用者に対して真撃なサービスに務めている(NPO北はりま田園空間博物館,2009).



表1.田空の広報・交流活動(件数)の推移

活動の種類

視察・研修

受け入れ

講師派遣,外部会合・セミナー

・研修出席

メディア取材

2002年度

23(1)

14

13

2003年度

29(1)

10

6

2004年度

22     

19

3

2005年度

29(1)

24

6

2006年度

19(4)

16

3

2007年度

14(3)

11

3

2008年度

12(1)

1

6


注1)視察・研修受け入れ欄のカッコ外の数字は国内,カッコ内は海外からの件数を示す.
注2)海外からの受け入れのうち韓国6件,ラオス2件,中国,ブータン,マレーシアは各1件となっ
   ている.
本表は「NPO北はりま田園空間博物館第2回(2003年)-第8回(2009年)通常総会資料」に基づき作成した.   


参考文献
丸山好一(2009) 美しいふるさとで住民自らが輝こう(北はりま田園空間博物館の取り組み),
     北はりま田園空間博物館講演資料pp.1-4,NPO北はりま田園空間博物館,兵庫.
中谷 毅(2003) 北はりま田園空間博物館の取り組み,兵庫県政学第9号,35-40.
NPO北はりま田園空間博物館(2008) 北はりま田園空間博物館まるごとガイドpp.90-91,
     NPO北はりま田園空間博物館,兵庫.
NPO北はりま田園空間博物館(2009) 特定非営利活動法人北はりま田園空間博物館
     第8回通常総会資料,平成21年5月18日(月)pp.4-12,
     NPO北はりま田園空間博物館,兵庫.
津川兵衛・川本あづみ・上村忠嗣・山田悠加里(2009)
     NPO北はりま田園空間博物館(田空)の研究 Ⅰ.田空設立への取り組み
     1.田空の理念
     http://blog62.fc2.com/control.php?mode=editor&process=load&eno=2
財団法人農林統計協会(2000) 図説食料・農業・農村白書(平成11年度),
     第Ⅲ章第3節農村の総合的な振興pp.336-343,財団法人農林統計協会,東京.

謝辞
 NPO北はりま田園空間博物館の役員の方々には,本論文を御精読下さり,細部にわたりご教示頂いたことを心より御礼申し上げる.

 

 

                     エコミュージアム
       NPO北はりま田園空間博物館(田空)の研究
            Ⅰ.田空設立への取り組み
               2.田空の意義


               津川兵衛・川本あづみ・山田悠加里・田邊倫子・上吹越美沙

エコミュージアムで地域活性化
 農業・農村に関してはさまざまな問題が山積するが,深刻な過疎化・高齢化に喘ぎ,集落機能の弱体化が進む中山間地農村の振興は最重要課題の一つである.農地の大規模集積が困難な中山間農業地域では,農業・農村が保有する多面的機能,特に文化伝承機能や保健・休養・やすらぎ機能等を活性化させて集落組織を再構築し,地域の経営能力の充実を計ることを奨励したい(津川兵衛・栄藤公彦,2007).具体的には,それは社寺・祭礼・史跡・棚田などの文化伝承事物,ならびに山岳・渓谷・湖沼などの自然環境を守りながら,「町づくり・村づくり」の合言葉の下に農産物直売所の経営,地域特産品の開発,各種オーナー制度の確立,滞在型市民農園の運営,棚田・里山ボランティアによる援農活動,あるいは企業の社会貢献活動の召致などにより地域の潜在能力を顕在化させることである.これらはある程度の成果を挙げているが,大部分は地区単独の事業であるため情報発信が不十分で,斬新な発想であっても不発に終わってしまう場合が多いことも事実である.また,長年継続している事業では,利用者である都市住民と受入側の農村住民の双方でマンネリズムが横行して,せっかくの事業も褪色してくる.しかも,零細事業であるため外部からの経済的・技術的支援を仰げないまま解体の浮き目を見るものも出てきている.このような弱点を克服するためには,エコミュージアムのように個々の事業を一つの大きな枠組みの中で総合的かつ体系的に取り扱い,しかも十分な成果を上げるためにシンクタンク部門を内蔵した体制づくりが必要である.また,内部シンクタンクだけでは解決が困難な場合には,地域の実状を把握し,活性化に向けてのノウハウの蓄積をもつ外部シンクタンクの援助を得やすい体制づくりが望まれる.
エコミュージアムでツーリズムを楽しもう
 わが国では2000(平成12)年版の図説食料・農業・農村白書(財団法人農林統計協会,2001)で西欧におけるエコツーリズム(またはグリーンツーリズム)事例が紹介されて以来,この運動は農村での観光や余暇活動として次第に国民の間に浸透してきている.今日ではエコツーリズム利用者が急増して企画会社や観光バス会社が大いに利益を上げていることはマスコミ等により報じられている通りである.また,家族づれから高齢者のグループに至るまでウォーキングが盛んで,休日ともなれば川辺や海岸沿いの遊歩道,田園地帯の散策道など随所で見掛ける光景となっている.
 エコツーリズムの利用者は,日本人にとって原風景を想い起させる情景に出会って心のやすらぎを得たり,軽い農作業を手伝いながらの田舎暮らしを希望する者が大部分である.しかし,それだけでは飽き足らず,農村における自然・文化の学習と体験,祭礼その他の伝統行事,農事その他の共同作業にも参加を望む者がいる.場合によっては,田畑を借りて米・野菜づくりの指導を受けながら地元住民との交流を図る滞在型の余暇活動に興味を示す者も出てきている.このように,都市住民の要望は次第に多様化している.
 日本型エコツーリズムの定着を促すには,誰でも気軽に立ち寄れ,優れた休憩機能を有する「道の駅」に,ツーリズム支援型および目的地型施設を併設してはどうかという提案がある(四方康行,2002).また,兵庫県のように,グリーンツーリズムバスの運行制度を設けたり,都市と農村の交流を支援して,県下全域に分散するツーリズム拠点へのアクセスを容易にしてきた例もある(兵庫県,2008;ひょうごふるさと交流推進協議会,2009).しかし,利用者の多様な要望は上述の対応の枠を遙かに越えている.若者から高齢者まで,四季折々に,単なる田園探訪の小旅行から体験・学習をも含めて,体力に合わせて好みのルートを選択できるエコツーリズムを求める都市の利用者にとって,また観光資源の開発,都市との交流を図り,地域活性化を促進したい受け入れ側の農村住民にとっても,エコミュージアム方式の採用は極めて重要な意義を持つと思われる.

エコミュージアムの役割は大きい
 兵庫県中央部に位置する北播磨地方には,このエコミュージアム方式に則って2002(平成14)年に「NPO北はりま田園空間博物館(田空)」が設立された.その後田空は農産物直売,特産品の開発・販売,エコツーリズム,都市と農村との交流,海外農業技術支援等においてかなりの成果を上げ得たものと関係者は自負している.また,高い外部評価をも得ている.このような訳で,エコミュージアムの設立を目ざす各地の自治体,あるいはエコミュージアムを研究対象とする大学,その他の研究機関からも多数の見学者が訪れるようになり,モデルケースとしての役割を果たすまでになっている.
 田空は西脇市と多可町の全域をカバーする.しかも,双方とも平成の大合併を経て制定された自治体である.したがって,地元住民といえども自らの市内,町内でさえ知らない場所は沢山あるはづだ.田空の設立以来,域内住民のためにバスツアー形式のエコツーリズムが開催され,自分たちの地域を手軽に,しかも詳しく体験できるようになった.これはエコミュージアムがあればこそできたものだ.自治体合併では特に本庁舎から離れた周辺部が衰退するといわれるが,田空ではエコツーリズムを駆使してこれを防止する対策を立てることができる.なお,エコミュージアムができれば,地域の案内人あるいは語部として高齢者には雇用の道が開かれるし,学生にはインターンシップの場が提供できる.場合によっては,エコミュージアムは学生・院生の卒業論文あるいは修士・博士論文のための研究対象になり得る.
 エコミュージアムは兵庫県下で田空以外にも設立計画があると漏れ聞く.エコミュージアムが複数箇所あればエコツーリズムの相互乗り入れが成り立つ.これらが同じ川筋の上流域と下流域に位置すれば,川上と川下の交流が発生しよう.山間部と海浜部であれば山と海の交流も始まるであろう.15年前の阪神・淡路大震災時に,日頃の地域交流が大災害発生直後の緊急支援に,どれほどの威力を発揮するかを体験したのは著者らだけではないと思う.
 ところで,最近では地方分権(地域主権)の言葉がマスメディアで頻繁に飛び交うようになった.地方分権改革とは国と地方の権限を明確にし,地方の権限に類するものは地方へ移譲され,税財政的裏付けも確立される.しかし,ここまで止りでは真の地域主権は成り立たない.官と民の間には,これまでのように上意下達の関係ではなく,庶民の知識と経験が素早く行政に反映される仕組みが必要であろう.地域住民にとって行政はもっと身近な存在となり得るので,行政・住民間のコミュニケーションを充実させることを地方分権改革の柱に加えるべきだ.このような発想の下に行政と住民が一緒になって自然遺産や文化遺産を保全し,活用してゆくエコミュージア構想は地域主権を後押しするに違いない.庶民にとっては「地方から国を変える」道筋は,エコミュージアム運動を国民の間に浸透・拡大してゆく過程において見えてくるものだと思われる.
 以上に述べたような方向でエコミュージアムを捉えるなら,この運動が及ぼす影響はいかに多方面に及び,かついかに強大であるかに気付くはづである.




参考文献
兵庫県(2008) 農林水産政策白書ひょうごみどり白書2008,pp.2,11,
     86-88,101-105,兵庫県,兵庫.
ひょうごふるさと交流推進協議会(2009) ひょうごグリーンツーリズムガイドブック,
     兵庫県,兵庫.
丸山好一(2009) 美しいふるさとで住民自らが輝こう(北はりま田園空間博物館の取り組み),
     北はりま田園空間博物館講演資料pp.1-4,NPO北はりま田園空間博物館,兵庫.
津川兵衛・栄藤公彦(2007) おいでえな、棚田めぐりへ[高橋信正・金澤洋一編著
     田舎のちから―人/資源/環境/交流,pp.119-142]昭和堂,京都.
四方康行(2002) グリーンツーリズムと道の駅,農業および園芸(第77巻)1065-1072.
財団法人農林統計協会(2001) 図説食料・農業・農村白書(平成12年度),第Ⅲ章
     第3節農村の総合的な振興,pp.250-257,財団法人農林統計協会,東京.


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